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幸福な時代 2005/07/10

 自分たちが、リアルタイムに60年代か70年代のロックを聴いていて、リアルタイムに「今が歴史の中で特別であること」に気づいていた、みたいなことを村上春樹が書いていたけれど、確かにそうで、音楽(ポップス)がもっとも幸福な時代は?ときかれるとやっぱり、60年代か70年代と言っていいのだと思う。
現在、音楽は街中に溢れ、欲しければネットでダウンロードでき、携帯していつでも手軽に聴くことができる。
一昔前は、学生であれば高価なアルバム1枚を必死の思いで買ったものだし、友人に頼んで録ってもらった音質の悪いカセットテープで必死に聴いたものだった。さらにその前になると、音楽を聴く機器自体が高価で一般家庭にはなく、FM放送や街のあるジュークボックスを噛り付いて聞いたのだろう。
昔のほうが音楽を手に入れるのが格段に困難でありながら、ところがそういう時代の音楽のほうが存在感があり、時代と深くコネクトしていたことを意識し、熱狂できたように思えるのはなぜだろう。作り手も受け手も幸福な時代に思えるのはなぜだろう。

 最近、久しぶりにゲームの「ドラクエ8」をやったのだけれど、1,2をやったときの、世間の盛り上がりもないし、やっている本人も、1,2をやっていた ころの気分とはぜんぜん違う。これはゲームの出来などの問題ではなく、本人が大人になってしまった、というレベルの話でもない。
初期ドラクエの表現力は今のものと比べると子供だましのようなもので、媒体もROMカートリッジで流通コストは高く、物流システム、マーケティングも今ほど洗練されていないので、売り切れが続出し、店に行列したり、田舎では入荷まで何週間も待ったものだった。
それでも、ゲーム産業が時代と深くコネクトして熱かったのは、80年代後半から90年代前半だった。
そして、ドラクエ1,2をやっていた頃が、歴史の中で特別とリアルタイムに意識していたか、と問われれば意識していた、と答えたい。

 別の例でいえば野球なら王・長嶋選手がいた40年代と、それぞれの産業についても、もっとも幸福で熱い時代というのがある。

 その法則として導かれるのは、「産業として成熟する2、3歩手前がもっとも幸福な時代」ということではないかと。産業の黎明期は早すぎて、時代の一角を 占められないのでムーブメントまでは起きない。逆に、成熟すれば、次にどう進化するか、という期待値が失われ、時代の象徴として熱くはなれない。

 最近ではインターネット、が「産業として成熟する2、3歩手前のもっとも幸福な時代」なんだろうと思う。成熟と冷静さは一体であり、当事者は嘆きもせず 成熟へ向けてアクセルを踏み続けるしかないのだけれど、あと10年も経てば、「あのころはブロードバンドも何もなかったのに、それでもインターネットって 熱かったなあ」などと言われるのは当然のことなんだと思う。


written by 株式会社ソーソー代表取締役 下野友哉