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残酷な風景 2007/11/28

 10代からそれなりの数のアルバイトをやってきたが、1ヶ月と持たなかったアルバイトが一つだけある。二十歳のころ、もう10年以上前の話ですでにこの店はないと思うので書く。

 時給がいいので水商売のカウンター、ホールの仕事を好んでやっていた。当時(今も?)、クラブ、スナックやパブと呼ばれた店のお仕事である。

 銀座のとあるパブにひときわ高額のアルバイト募集があったので飛び込んだ。仕事をするまで気がつかなったが、男性向けにかなり際どいサービスをする店だった。実際、警察に踏み込まれたら上げられただろう。

 店は繁盛、開店から閉店まで満席どんちゃん騒ぎである。タバコの煙が充満して店全体が白く霞み、カラオケが鳴り響き、酔った客が悪ふざけの極みである。その悪ふざけを許容することがこの店の付加価値であり、まあ、プロが会話を楽しませる店でなく、そういうコンセプトの店ということである。銀座の店も色々である。

 時間が経過していくと料理も酒も散らかって、バイトの私がテーブル上を直そうとするが間に合わない。
「乱痴気」とはこういうものだと思った。
うるさすぎて声が聞き取れないので、スタッフどうしで何気ない立ち話もしない。

 この店の驚くべき風景は、深夜12時になると電気が全部消され真っ暗になる(店長がわざとする)。何が起こったのかわからず、最初にこの店に来た人は呆然とする。一瞬で神に消された堕落の都市、旧約聖書のソドムさながらである。しばらく経つとまた電気が付くが、それを合図に客はいっせいに帰り、またたく間に店が終了するのである。
 12時以降の営業は絶対にしないという諸事情があることは何となく予想できたが、閉店時間は徹底していた。

 客だけではない。終電に間に合わすために、ホステスも含めスタッフ全員が真顔になり、軍隊のようなスピードで閉店作業をし服を着替え、おつかれさまでしたの一言で一斉に散るように帰っていく。

 人から欲望だけを剥き出しにすればこういう風景になるのではないかと思った。

 結局、この風景に適応できなかった。
 若い私は欲望だけの風景に耐えられなかったのである。


written by 株式会社ソーソー代表取締役 下野友哉